“使えない”を疑う。〈東根の家Ⅱ〉に見る、屋久島地杉B材の可能性

チャネルオリジナルの屋久島地杉プロジェクトは、今年で11年目を迎えました。
このプロジェクトは、日本で初めて世界自然遺産に登録された島・屋久島の森で育つ“屋久島地杉”を有効活用することで、「自然林として守る森」と「産業林として活性化させる森」の両立を目指す取り組みです。


屋久島地杉は、人里に近い人工林に植えられた杉です。

戦後、屋久島には多くの杉が植えられましたが、国産材の需要減少や林業従事者の不足により、手入れが十分に行き届かない期間がありました。その結果、樹齢50〜70年を迎えた原木には抜け節や虫食いのある材も少なくありません。こうした背景から伐期を迎えた原木の多くは、長らくチップやパルプとして利用されてきました。

チャネルオリジナルは、2015年から島内外の関係者と連携し、屋久島地杉を建築資材として活用する仕組みを構築してきました。プロジェクトにご賛同いただいたお客様に支えられながら、屋久島地杉を用いた建築は少しずつ、しかし確実に各地へと広がっています。

その一方で、製材過程で“B材”に分類された材(抜け節や傷が多いもの)が倉庫に滞留する課題にも直面しています。同材は通常品よりも価格を抑えてご提供していますが、需要が限られるため、出荷量は伸びにくいのが現状です。

材の品質が少し悪いだけで、“使えない”としてしまう考え方そのものが、森を苦しめていると思いませんか?

B材の活用を模索する私たちにそう問いかけてくださったのは、一級建築士事務所〈鍋野友哉アトリエ/TMYA〉の鍋野友哉様です。東京と山形を拠点に建築設計を手がけるほか、東京大学や山形大学をはじめとする大学での講師活動、公益社団法人 日本建築士会連合会でのご登壇など幅広い分野でご活躍されています。

山形県に建つ鍋野様のご自宅〈東根の家〉には主屋と離れがあり、外装・内装ともに屋久島地杉をご採用いただいております。

今回は、外壁に屋久島地杉のB材を用いた〈東根の家Ⅱ〉(離れ)を実際にご案内いただきながら、同材を活かした建築の実践やデザインに対する考えについてお話を伺いました。

採用商品 屋久島地杉

節や傷を豊かな表情に変えるディテール

取材当日、「お久しぶりですね」と迎えてくださった鍋野様。
主屋が竣工した翌年(2023年)にも現地でお話を聞かせていただきました。

東根の家(主屋)の取材記事は、下記よりご覧いただけます。
素材ありきで建築を形づくる〈東根の家〉

今回ご案内いただいた〈東根の家Ⅱ〉は、一般的な2階建て住宅の高さ(7〜8m程度)よりも2m以上低い5m以下で計画されています。外部と内部の高さをずらすことで、視線が交錯すること無く外に向かってひらくことができ、敷地全体の抜けを確保するとともに、主屋や周辺環境との調和が図られています。

外壁にご採用いただいた屋久島地杉のB材は、場所によって幅や方向を変えて張り分けられており、一見ランダムに並んでいるようにも見えました。しかし、よく見ると小口は45度で揃えられており、その整然としたディテールが建築全体の輪郭を引き締めていることが分かります。


小口について鍋野様に伺うと——

鍋野様
「やっぱりディテールが命だと思うんですよ。この外壁のように、木がシンプルに並んでいるだけなんですが、綺麗に見せるためには、裏でどう細工するかが大事で。白鳥って優雅に泳いでいるように見えますけど、水の下では足をバタバタさせてますよね。そう見せるためには、細かなところまで意識をもってやりきることが大切だと思います」


本建築を訪れたのは、竣工から約1年が経過しようとしていた頃。

冬は寒さが厳しい立地において、外壁のB材がどのように変化しているのか、やや緊張しながら眺めたものです。しかし、そんな心配をよそに、鍋野様の設計のもと安定した納まりをみせながら、屋久島地杉ならではの野趣あふれる表情が、いきいきと輝いて見えました。

視線の抜け方で変わる体感

2階に上がると、コの字型に配置された小さな居室が現れ、ほどよいこもり感のある空間が広がります。
平均天井高は2,100mm。居室の下限値とされる高さですが、不思議と窮屈さはありません。

鍋野様
「ここの幅は芯々で1,800mmしかなくて、うなぎの寝床のような場所なんですが…ハイサイドライトから視線が抜けることで意外と開放的に感じませんか?また、この天井高で意識的に抜け感を意識して勾配をつけているので、その効果がより感じられると思います。つまり、空間というのは単純な面積だけで決まるのではなく、視線の抜け方によっても大きく変わるんですね」

見学途中、廊下の壁に取り付けられた作品を眺めていると「実はこれ、座れるんですよ」と鍋野様が声をかけてくださいました。

鍋野様
「工場でいろいろな方向に曲げたり動かしたりしながら、結果この形に落ち着きました。建築は図面に沿ってつくることが正しいとされますが、僕は現場のライブ感を取り入れると、より面白くなると思っています。素材で言うと、木や土ってそれぞれの特徴や大工さんの手の跡が表に出るじゃないですか。木目をどう合わせるかとか、そういう偶然性や余白があるものってやっぱり良いなと思いますね」

日常に余白をもたらす“浮庭”

デッキスペースへ出ると、大きなヒマラヤスギと公園の緑が視界いっぱいに広がります。

鍋野様
「ここは“浮庭”(うきにわ)と呼んでいます。周囲の建物の階の高さから、ちょうど半層分ずらすことで外部からの視線とぶつからないので、あたかも切り取られた”時空の狭間”にいるような感覚になるんです。それに屋根を内側にバンク(傾斜)させているので、椅子に腰かけるとよりその感覚を実感できるんですよ。もしこれが一般的な2階建てくらいの高さだったら、きっと正面からの閉塞感が出てしまうと思います」

内と外の境界に位置しながら、両者がゆるやかに溶け合う浮庭。
〈東根の家Ⅱ〉の内覧会資料に書かれていた「社寺の楼門」という言葉は、まさにこの空間を表していると感じられた時間でした。

内覧会資料は下記よりご覧いただけます。
東根の家Ⅱ 内覧会資料
(提供:鍋野友哉アトリエ/TMYA)

デザインの力で「使えない」を「使える」に変えていく

見学後は、同行した営業メンバーも交えて、鍋野様の設計思想についてお話を伺いました。

鍋野様
「材料が一つひとつ違うように、敷地も同じものって基本的にありませんよね。だからまず、(敷地を)どう見せるかを考えるようにしています。マグロの解体じゃないですけど、”どこに包丁を入れるか”という感覚に近いんじゃないでしょうか。実際に敷地を見ながら、隣地の建物や人通り、ビューポイント、それと住まい手の考え方など、さまざまな要素を重ねながら判断しています」

鍋野様
「僕は変形地や周辺状況が厳しい環境の方がわりと好きなので、逆に“どう調理してやろうか”とやる気が出ます(笑)でも、制約は創造の糧ですよ。ないほうが良いと思われがちですが、実は制約があるほうが物事は進みやすいんです。むしろそっちのほうが、現場で生まれる化学反応みたいなものが出やすいのかなと思います」

鍋野様
「木材の経年変化に対するネガティブな印象については、やっぱりある種の教育や価値観の共有が必要だと思います。建築学科の学生は設計について学んでも、木の特性や見せ方を分かっていないことも多いんですね。だからこそ、基本的な知識とあわせて、木の変化をポジティブに捉える視点を伝えていくことが大切だと感じています。ちなみに、ヨーロッパではあえて経年したように見せる外壁塗料も開発されました。これは、“時間を重ねたものに価値がある”という考え方があるからこそ、生まれたものだと思います」

鍋野様
「そうですね。今って、ファスト化されたものが衣料品から建築に至っている気がして。安くて、早くできて、それっぽく見えたらいいや、という価値観が広がっているというか。建築に限らずですけど、短いスパンでしか物事を見られていない。経済性だけが重視されて、それ以外の価値が捨てられてしまうような……そんな余裕のなさを感じることもあります。でも、無いなかでも楽しめることってあるし、楽しもうとするスタンスこそが真の豊かさなんじゃないかと思いますね」

鍋野様
「そもそも屋久島地杉を使いたいと思ったのは、地肌の色が面白いこと、それと出先がなかなか無いことを知ったのが大きかったです。地産地消ってよく聞きますけど、屋久島のような離島でそれを実現するのはなかなか難しいじゃないですか。でも、地球規模で見れば、日本に生息している木はみんな日本圏で、同じ地域産とも言える。県単位で閉じるのではなく、もう少し広い視点で“面白い材があるなら使いたい”という感覚ですね」

「B材に関しては、山のためにも歩留まりを上げたいからです。B材は使い道が限られて、廃棄されることも多いからこそ、“全然使えるんだよ”と実際に見せていく必要があると思っています。今って、木を一本伐るだけで赤字になる可能性もあるじゃないですか。そうなると手間のかかる国産材よりも、コストの低い輸入材に頼るほうが合理的だとされてしまう。そんな状況で、ちょっと品質が悪いと使えないと切り捨ててしまったら、さらに山を苦しめることになります。そんな考え方では、林業も持続できないと思います」

取材を終えて

学生時代、大学の演習林で測量や枝打ちを経験し、山や森を取り巻く状況に関心を持つようになったという鍋野様。2025年7月に登壇された際の講演資料では『山と地域と未来をつなぐ建築の可能性』と題し、その思いをこう綴られています。

今、日本の山では戦後植林されたスギ林の手入れもなかなか進まず、山は荒れ林業従事者は減少の一途です。日本は世界的に見ても有数の森林率を誇ります。なんとOECD加盟国34ヶ国中フィンランドに次いで2番目の高さです。しかし、それを活かしきれていないのが現実です。

“私はこの現状を素材の孤立と考えています。山で生まれた木が、そのまま社会の循環に組み込まれることなく、立ち枯れていく。そうした断絶は、私たちの暮らしの根元にある地球との関係性をも失わせてしまうのではないかと危惧しています。建築がそれにどう応えうるのか。それを考えることが、私の設計活動の出発点でもあります。”

私たちもまた、日本の森林が抱える課題を背景に、建築資材の源である自然の生態系に配慮しながら社会に貢献していくことを目指し、屋久島地杉プロジェクトを始動しました。

その一方で、B材の扱いに課題を感じ、「一般的な用途に使うのは難しいかもしれない」と考えていたのも事実です。しかし、今回の取材でB材のポテンシャルを目の当たりにし、鍋野様のお話を伺うなかで、その思い込みは、ほかならぬ私たちの中にあったのだと気づかされました。

すぐに大きな変化を生み出すことは簡単ではありません。

それでも、素材の背景や森の現状、〈東根の家Ⅱ〉に見る実例を発信し、理解を深めていくこと。お客様との対話を重ねていくこと。その一つひとつが、確かな一歩になるのだと感じています。

鍋野様からいただいた言葉を糧に、私たちも歩みを止めず、森と建築がつながる未来に向けて挑戦を続けてまいります。

鍋野友哉アトリエ/TMYA

〒154-0022 東京都世田谷区梅丘1-15-9スペース88 202号
https://www.tmya.jp/

 弊社納材商品(東根の家Ⅱ)

外壁:屋久島地杉デッキ MIXグレード B 38x140x4,000㎜
床 :屋久島地杉フローリング 節無 30x135x2,950㎜
浮庭:屋久島地杉デッキ MIXグレード 38x140x3,000㎜

チャネルオリジナルは、国内外の多様な建材のご提案を通じて、お客様の家づくりと真摯に向き合い、価値ある家づくりを支えるパートナーでありたいと考えています。それぞれの現場や想いに寄り添えるよう、今後も全力でサポートを続けてまいります。